ゴー宣DOJO

BLOGブログ
笹幸恵
2025.3.20 01:04皇統問題

『SPA!』倉山記事〜〜ゲスでセコい専門バカの話。

仕事で会う人には、いろいろなタイプがいる。
中には案件の全体像を俯瞰して見ることができず、
長期的な視野を全く持てない人も。
持てないのではなく、持つことすら思いも付かないのだ。
いくら言っても伝わらない。

そういう人が自分の立場に汲々とする場合、
だいたいは「専門バカ」になる。
大枠を掴めない代わり、細部にこだわり、
それを声高に主張する。
細部にこだわりすぎて、何を言っているのか
周りはさっぱり理解できない。
どんどんタコツボ化する。
なぜそれが重要なのかも不明瞭。
ただ本人だけはせっせと専門知識を披瀝し、
何か仕事をしているような気にだけはなっている。
引っかき回される周囲の人間はたまったものではない。
毎回、軌道修正に時間を取られる。

これはあくまで一般論。
だが、言論の世界にもいたんだな。
今週の『SPA!』3/25号の倉山記事がまさにそれ。

今週は皇位継承に関する全体会議の概要と、
相も変わらず先例原理主義っぷりを披露。
赤ペンでツッコミを入れながら読んだら、
朱書きのない段落が一つもないという始末。
キリがないので、3点だけ指摘する。

①ゲスさ全開
全体会議について、ただの思い込みとゲスな言い回しで、
必死に「女系容認悪玉論」を読者に印象づけようとしている。
自分の意見に与しない政党については、
「およそ皇室を守りたいと思っているとは思えない変わり者」
と揶揄。
立民の野田代表のことは、
「れいわや共産党に同調した意見だけを主張」
「演説はできても討論できない人と評判」
などとミスリードしたり無責任な噂を垂れ流す。
一般国民である男性は、「パンピーの男」などと、
書き言葉としておよそ使うに堪えない言い回し。
一方で、旧宮家の男系男子養子案は
「皇統保守を願う人々の悲願」だと。
全体会議の中身より、倉山の幼児性が前面に押し出されて
しまっていて、なんというかこの筆者への同情を禁じ得ない。
居酒屋談義は居酒屋でやらないと本当に恥ずかしい。

②微妙なすり替えがセコすぎる
「神武天皇の伝説以来〜〜〜〜皇位の男系継承を続けてきた」は
倉山の常套句。
要するに「天皇の父親の父親・・・」をたどれば神武天皇に行き着く、
だから尊い、というのが男系原理主義者の言い分なわけだが、
そこを最近、倉山は微妙にすり替えている。

すべての天皇と皇親は「父親の父親・・・」とたどると
天皇に行き着く。

先日ブログで紹介した「正統(しょうとう)」を言いたいのだろう。
正統(しょうとう)こそが万世一系の証???

「天皇の父方」を辿るのではなく、いつの間にか
皇親(=皇族)まで話が広がっている。
神武天皇につながるのでなく、
どこの誰と明言しない「天皇」になっている。
要するに言質を取られないよう間口を広げているのだ。
じつにセコい。

こんな男系継承の話、聞いたことないですけどね?
しかも、「これが男系継承の定義だ」などと
威張りくさって書いてくるから二度びっくり。
キング・オブ・厚顔無恥!

セコさについてはもう1例。
「女性は結婚して皇族になれる」というのも、
「前近代は結婚による身分の変更はない」と、
高森先生から指摘されて以降、悔しくて
相当に文献をあさったのだろう。
でも「なれる」とは成文法にはない。
ゆえに記事では、「皇室に受け入れられた」などと
お茶濁し戦法を用いている。セコい。
史料を前にしてなお自説を顧みないなら、
□□史家を名乗る資格はない。

③先例バカの極致
特に記事後半、専門バカの派生形のひとつ、
「先例バカ」をいかんなく発揮している。

(3月10日の全体会議について)
政府の説明は、「皇族の養子は先例がある」
「生まれた時は民間人だった皇族の男系子孫が
皇籍を取得した先例も多くある」
「養子により皇籍取得した先例はないので、
先例と先例を合わせて」とのことのようだった。

この説明が合っているのか判然としない
(まだ議事録が出ていない)が、
「先例と先例を合わせて」って、何だそりゃ。
馬淵議員が「それは先例がないということだ」と
発言したのにかみつき、
「まさか、人間界で杓子定規に(先例を)
再現し続けろとでも言うのか」
とキレている。
完全に「おまいう案件」だ。
自分にとって有利な場合は杓子定規に先例絶対!と騒ぐくせに、
都合が悪い(うまく先例が見つけられない)場合は
「古来、皇室では『時代に合わせて準じて変えて
大枠を守る』を繰り返してきた」
などと見てきたかのように言う。

そして、平安時代、源明子が盛明親王の養女になり、
「同時代の史料では皇族として扱われていると書く。
(これなどは②と③の合わせ技ね)
本人、これが養子縁組の先例だと示したいのだろうが、
現在とどう結びつくのか、さっぱりわからない。
先例にお詳しいのは十分にわかりましたヨ。
で、養子縁組で皇族になるという旧宮家の
男系男子はいずこに???
いないのなら話にならない。

史料を読みあさるのはご立派なことですが、
どこを目指しているの?何がしたいの?
それで安定的な皇位継承は実現するの???

こうした声は、倉山の耳には届かない。
タコツボの奥深くに入り込んじゃってるんで。


ついでに、もうひとつだけ、
とてつもない破壊力を持った段落を紹介する。

倉山にいわせると、男系継承は蝋燭で、
皇族女性と「パンピーの男」の子供は電球らしい。
その子が天皇になる、すなわち女系天皇とは、

「蝋燭だと火が消えないか不安なので
電球に取り替えよう」と言っているのと同じ

なんだそうな。

え?


蝋燭を電球にとりかえても同じなのか。
女系天皇を主張する論者、誰一人として
証明していない。


え??


えーーーーっと、何を証明するのかな(笑)

誰か、居酒屋に付き合ってやれ。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

次回の開催予定

第122回

第122回 令和7年 4/20 SUN
14:00~17:00

テーマ: ゴー宣DOJO in横浜「ウクライナ戦争と国際法の行方」

INFORMATIONお知らせ